婚カチュ。
会社を出ると雨が降っていた。
朝から曇り空だったけれど、重い雲はとうとう涙をこぼしてしまったようだ。
ロッカーに置いておいた折り畳み傘を差し、気がつくとわたしは駅とは反対方向に歩いていた。
気付いたときにはもうビルの前で、わたしは傘にあたる雨の音を聞いていた。
入り口脇で銀色に輝く案内表示のなかにフェリースの文字がある。
広瀬さんの顔を見たい。でも会うのが恐い。
彼に戸田さんからのプロポーズのことを相談したい。でも言われる言葉なんて決まっている。
彼はわたしのアドバイザーだ。
会員同士をくっつけることが仕事なのだ。
おまけに告白の有無にかかわらず、広瀬さんには桜田さんがいる。
最初からどうにもならない恋だとわかっていたのだ。
好きだとぶちまけたところで、何かが変わるわけじゃない。
だからわたしは何食わぬ顔をしてフェリースに顔を出し、いつものようにアドバイザーに出迎えられて、それから戸田さんとの結婚を報告すればいい。
そうすれば相談所を卒業することになるし、もう広瀬さんとも顔を合わさなくて済む。