婚カチュ。
「行こう、松坂」
覆われた手とは反対の手で松坂の腕をつかみ、わたしは歩き出した。
ビルとビルのあいだの細い通りを抜け、黒く濡れた地面を横切る。
まるでレオの散歩でもしているみたいに、松坂を引き連れて、人のいない、奥まった場所へと進んでいった。
「先輩……?」
折り畳み傘は松坂の手にあり、わたしに差しかけてくれるけれど、すでにからだはしっとりと濡れていた。
オフィスビルが立ち並ぶ通りを抜け、ごみごみとした雑居ビルが密集する地帯を越えて、雨にけぶるちいさな公園と赤紫の毒々しいネオンがにじむ建物のあいだで立ち止まった。
従順な後輩もすぐ後ろで足を止める。
雨の中で、わたしは彼に向き直った。
「ごめんね松坂」
差しかけてくれる小さな折り畳み傘はもうほとんど機能していない。
次々と降り注ぐ雨粒に、わたしの髪も松坂の肩も、すっかり湿っている。