婚カチュ。
「わたしは、恋愛がしたいわけでも、結婚がしたいわけでもないの」
恋愛感情に心を乱されることが煩わしい。
社会人なのだから、心の余裕を失って仕事をおろそかにするわけにはいかない。松坂の気持ちは、いまのわたしには少し重い。
「わたしはね、子どもがほしいんだ。不便な思いをしなくて済むなら、相手なんて誰でもいい。自分の子どもが持てるだけでいいの」
それがわたしの最初の理想だった。その目標のために婚カツをはじめた。
よりよい環境で子どもを育てるために、結婚相手の条件は微に入り細に渡って吟味した。
「だから、松坂とは恋愛できない。ごめんね」
雨に濡れた後輩は苦しげに眉を下げ、唇を震わせている。
それは怒りの表情だった。
「だったら……」
形のいい下唇を一度噛んで、松坂は叫んだ。
「だったら俺の子を産んでくださいよ!」