婚カチュ。
雨に打たれて落ちた言葉に、私は目を見開く。
松坂の左手がわたしの肩をつかんだ。
「先輩、俺がどれくらい本気か全然わかってねえよ。俺が、なんのためにあんな相談所なんかに――」
「なんの話ですか」
わたしの肩をつかんだ松坂の手がびくりと震えた。
細い路地の影から透明の傘を差したアドバイザーがゆっくりと歩いてくる。
「広瀬さん……どうして」
頬がこわばった。
メガネを外した彼は、眉をひそめてわたしたちを見つめている。
「感心できないな。そんなとこで、そんな話」
言われてわたしは背後の建物を振り返った。
赤紫のネオンが獲物を呼び寄せるように怪しく輝いている。
「ほら二ノ宮さん、行きましょう」
そばまでくると、広瀬さんは右手をわたしに差し出した。