婚カチュ。
6◇たとえば合縁奇縁の結婚相談所
1 ◇ ◇ ◇
テナントビルの5階で降りると、目の前に白とピンクの花で飾られたドアが現れる。
スタッフたちから幸福の扉という大げさな名前を与えられたそのドアには、天使の形をしたスワロフスキーのドアベルが取り付けられていた。
ゆっくり押し開けると、涼やかな音を響かせて天使が揺らめく。
この音を聞きつけて、わたしのアドバイザーはやってくるのだ。
しかしその日、わたしを出迎えてくれたのは王子様ではなかった。
いつもと同じ洗練された美貌を湛えた桜田さんが、困ったような顔でわたしを面談室に案内してくれる。
「ごめんね、ちょっと待っててくれる?」
忙しそうな彼女はわたしを椅子に座らせるとすぐさまガラスのドアを出て行こうとした。あわてて呼びかける。
「あの、広瀬さんはいないんですか?」
振り返った桜田さんは途方に暮れた様子で首を振った。