婚カチュ。
つくり笑いを浮かべた桜田さんが広瀬さんの腕をつかんで強引に引っ張っている。
彼女は彼を人形のように引きずりながらフロアを突っ切り、面談室のドアを開けた。
「おほほほ」
不自然な笑いをこぼしながら、2脚あるうちの1脚に広瀬さんを強引に座らせる。
「ごめんね、紫衣ちゃん。智也くん、ちょっと本調子じゃないんだけど、しばらくすれば治ると思うから」
そう言い残し、桜田さんは面談室を出て猛スピードでスタッフルームに戻っていった。
ガラスの部屋に広瀬さんとふたりで取り残される。
椅子に腰掛けている彼は不貞腐れたように横を向いていて、頑なにこちらを見ようとしない。
わたしはおそるおそる彼の正面に座った。
「あの、広瀬、さん?」
大丈夫ですか――? そう言うより先に、彼の抑揚のない声が聞こえた。
「あなたは、ひどい」
「え……?」