婚カチュ。

 

結婚相談所のアドバイザーという立場でありながら、広瀬さんはお客様であるわたしに対して容赦ない。

見たところ年下なのに、歯に衣着せぬ物言いとインテリ・アイテムのメガネのせいで落ち着きつつもなんとなく醒めた雰囲気をまとっている。


「だいたい、せっかくのお見合いなのにきょろきょろしすぎです。愛想もないし。それに相槌を打つだけで全然話してませんでしたよね。質問したり積極的に話しかけていかないとお相手は自分に興味がないんだって思って身を引いてしまいますよ。男性は繊細ですから」
 

はっきりと言われ、わたしは首をすくめた。


「すみません。なんだか、緊張してしまって……」

「緊張、ね」
 

右手のボールペンをくるりと回し、広瀬さんは背筋を伸ばす。


「それなら、少しシミュレーションをしてみましょう。僕をお見合いの相手だと思ってください。いいですか」

「え、いまですか?」


そうです、と答えて、広瀬さんはかけていたメガネをスーツの胸ポケットにしまった。レンズで抑えられていた美貌が全開になり、わたしは思わずからだを引く。

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