聖なる夜の願いごと
優柔不断な王妃と怒れる侍女


雪がちらつき辺り一面を白銀に染める寒い冬―――


その日、エレナは朝からそわそわとしていた。

正確には一週間ほど前から落ち着きがなく、本人も日に日に焦っていることを自覚していた。


エレナが立つのは執務室の扉の前。

執務室を前に立ち尽くしてもう十分ほどになる。

扉を見つめてはノックをしようと手を持ち上げ、いざとなると寸前で止まる。

通り過ぎる家臣や侍女たちは訝しげな視線に、エレナはいい加減にしなければと意を決する。

今度こそ、と思って扉をノックしようとしたが、何度目か分からない試みも一抹の不安に負けて失敗に終わった。



(まだ時間はあるもの…今日の夜話せばいいわ)


“まだ時間はある”そう理由をつけて早一週間。

次にかける意気込みだけは強く持ったエレナは今日も事を先延ばしにする。

しかし、執務室から自室へと返ろうと踵を返した先にいた侍女に思わず小さく悲鳴を上げた。

洗濯物を抱え鬼の形相で仁王立ちするその侍女はエレナつきの侍女ニーナ。





「エーレーナーさーまー」


ほわほわと柔らかい雰囲気のニーナからは想像できないほど低い声が廊下に響く。

何故ニーナが地を這う様な声を出して怒っているのかを身を持って知っているだけに乾いた笑みしか浮かばない。

しかし、これがニーナの逆鱗に触れたようで、ニーナがすぅっと空気を吸い込む。

それが何を予兆しているか感づいたエレナは足音を立てないようにニーナに駆け寄り、吐き出す寸前にニーナの口元を抑えた。

ここで大声を上げられてはたまったもんじゃない。


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