聖なる夜の願いごと
真面目なウィルと自由気ままなデュークは顔を合わせるたびにそりの合わないことを再確認するかのように嫌みを投げかけ合う。
これが二人のコミュニケーションのうちの一つだということを互いに認識しているため激しい口論までには至らないが、周りで見守る家臣にとってはヒヤヒヤものだろう。
「ところで、デューク。クリスマスは明日なのに何故今日帰ってきたんですか?」
「シルバに渡すものがあってな。毎年恒例のことだが、マリアンヌ嬢がシルバとエレナをパーティーに誘いたいんだと」
そういってデュークが胸ポケットから取り出したのは招待状だった。
ウィルは“マリアンヌ”という名を聞くと眉間に皺を寄せて難しい顔をした。
「シルバだけでなくエレナさんもですか…。結婚したからもう諦めてくれると思ったんですけどね」
「側室くらいにはなれると思ってるんだろ」
マリアンヌとはイースト地区筆頭の貴族であり、過去にはシルバの妃候補とも呼ばれた女性だ。
身分の高さはさることながら、気位も高く、社交界では正妃になるのは自分のほかないと豪語していたほどだという。
シルバとエレナが結婚してからは噂に聞かなかったが、こうしてまたシルバを誘うような手紙を寄越してくるとは思わなった。
「エレナには申し訳ないが、公爵令嬢の頼みを断るわけにはいかないんでな」
「仕方ないですね。マリアンヌ嬢は貴方の統轄区の領主のご令嬢ですからね」