聖なる夜の願いごと
勘違いした夫と諦めた妻
少し遅くなった。
シルバは執務室の外から見える景色を見ながらそう思った。
深夜零時を過ぎた執務室にはシルバしかいない。
書庫から大量の本を抱えて戻ってきたウィルも早々に見切りをつけて自室へと戻っていった。
ウィルが先に帰るとは、いつもよりも長く働いていたのだと分かる。
侍女が入れた眠気覚ましのための珈琲も冷めきっていた。
シルバは書類を机の上に置き、椅子の背もたれに体を預けて深く息を吐く。
(さすがに今日はやりすぎたか)
外はもう数時間前に夜の帳が下り、宵闇に白い雪が音もなく舞っている。
中庭にはどっさりと雪が積もり、城内にいても寒気を感じるが、シルバは冬が好きだった。
暖炉の灯りを見ていると落ち着くし、冬独特の静けさのようなものが気に入っていた。
ただ、最近は寂しさも覚えるようになった。
昔はそれこそ何時まででも執務室にこもり、ウィルと一緒に仕事をしていたものだった。
イースト地区の治安安定や検問所の設置、領地の再分配、雇用の安定など課題は山のようにあった。
それらの課題は国を建てなおすためには必要な時間であり、国の再建を誓った二人にとってはどんなに働いても時間が足りなかった。
だが今は日付が超えない程度できりをつけて帰ることが多い。
思えばエレナが誘拐されそうになった夜から自然とそうなったのかもしれない。
護衛はつけているものの、自分が傍にいないと気が気ではないのだ。
そんなことを思い出していると、だんだんとエレナが気になり始めたシルバ。