聖なる夜の願いごと
「ベッドで寝ていろと言っただろ。風邪を引いたらどうする」
「ベッドに横になったら寝ちゃいそうで…」
「眠ければ眠ればいい」
小さく欠伸をしたエレナはまだ少し寝ぼけた表情で差し出されたシルバの手を取る。
エレナの手を引いて立たせ、抱き上げるとエレナは自らシルバの首に抱き付くようにもたれかかった。
寝起きは唯一エレナが甘えてくれることを覚えたシルバはエレナを抱き上げたまま器用に上着を脱ぎ、暖炉に薪をくべたりしながら部屋を歩き回る。
最後にカーテンを開けようとして、ふと気づく。
エレナは眠たいのではなく、眠れないのではないかと。
誘拐されそうになった夜から、エレナは夏でも窓を閉め切り、カーテンを閉めるようになった。
単純に侵入者が怖いのだろう。
せっかくの白銀の世界をエレナに見せてやりたかったが、どうしたものか。
「カーテン、開けないの?」
シルバが迷っていると、エレナが首をかしげてそういった。
「怖いんじゃないのか?」
「…?シルバがいるから大丈夫」
さも当然のように言われた言葉にシルバは思わず足を止めた。
(今のが殺し文句だって分ってるのか?…いや、分ってないんだろうな)
シルバはきょとんとしたエレナの表情に心の中で自分に問いかけ、自分で答える。
いつもは恥ずかしがるくせに、思わぬ時に素直になるものだから破壊力が大きい。
シルバは短くため息を吐き、カーテンを開けた。
見渡す限り白銀の世界に、エレナは小さく息をのんで目を見開く。