聖なる夜の願いごと
ひとりぼっちの王妃とお茶目な淑女
翌日、エレナはオベール公爵家のクリスマスパーティーに圧倒されていた。
公爵家として由緒正しく、貴族の筆頭といっても過言ではないほどの家柄であるオベール家。
貴族であることを決して驕らず質素な暮らしぶりとオベール夫婦の人柄で市民から好感を得ている。
エレナはオベール夫妻が市民から支持を受ける理由が分かるような気がした。
齢六十を超えるにもかかわらず、クリスマスパーティーに来た多くの招待客をエントランスで迎える姿は誰が見ても好感を持てる。
「まぁエレナ様、ようこそおいでくださいました」
「こんなにも遠いところまでありがとうございます」
オベール夫婦はエレナを見つけるやいなや朗らかな笑みで迎えた。
エレナはオベール夫婦の前で止まると、ドレスの端を持ち上げ小さく会釈する。
「初めまして。エレナ・アルスターでございます。本日はこんなにも素敵なクリスマスパーティーにご招待いただきましてありがとうございます」
「まぁまぁ王妃様ともあろう方がいち貴族の老夫婦にそんなに畏まらないでください」
オベール夫人は慌てた様子でエレナに頭を上げるよう促した。
エレナは少し申し訳なさそうに頭を上げると、オベール夫妻はほっと安堵した顔つきになる。
そして、オベール公爵はエレナの周りを見渡した後、口を開く。
「エレナ様、陛下はどちらに?」
「シルバは公務で来れませんでした」
「クリスマスまでご公務を?」
「えぇ」
オベール夫妻は目を見合わせて驚く。