聖なる夜の願いごと
オベール夫妻の目論見は成功したようで、ホールは大人の声以上に子供の楽しそうな声で満ちていた。
「エレナさん」
子供たちの楽しそうな様子を温かい眼差しで見つめていたエレナの名を呼ぶ落ち着いた声。
エレナが声の方を振り向くと、そこには昨日会ったばかりの女性がいた。
「ブラントン夫人!」
「良かったわ、貴方が見つかって」
綺麗なブロンドをアップにして、シックなドレスを着こなす淑女、カロリーヌ・ブラントンは安堵した様子でエレナの手を取る。
「こんなに大きなパーティーは久しぶりだから落ち着かなくて」
「今日は確かアドニスさんといらっしゃるんじゃありませんでしたか?」
昨日のサロンではオベール公爵家のパーティーも話題に上がり、ブラントン夫人とその夫であるアドニス・ブラントンもパーティーに行くという話だった。
「それがあの人風邪を引いちゃって寝込んでしまったの」
ブラントン夫人は白いレースの手袋をした手を頬にあてて困ったように笑う。
「私ひとりだし、来ようか迷っていたんだけど、オベール公爵家のパーティーですからね。ご挨拶くらいはしておかなきゃと思って」
「そうだったんですか」
残念に思いながらもエレナは少しの間は一人にならずに済むと、胸をなでおろした。
「エレナさんの方は?陛下はいらしていないの?」
「仕事だそうです」
エレナが肩を落としながらそういうと、ブラントン夫人はエレナの落ち込みようを察したように柔らかく笑った。