聖なる夜の願いごと
どうやら女の子もエレナが楽しみにしているイベントを待っているうちのひとりのようだ。
男の子が言うリボンとは招待客全員に配られているもので、アークにはモミの木に結ぶと願いごとが叶うというジンクスがあるらしい。
特に恋人や夫婦が一緒にリボンを結びながら愛を誓うと、その二人は永遠に結ばれると言われている。
オベール公爵はクリスマスパーティーの招待状にそう謳っていたのだ。
中央に置かれているモミの木はまさにそのために準備されたものであり、オベール公爵家の敷地内に多く植えられているモミの木から厳選されたものだろう。
招待客、特に女性はリボンを持って今か今かと待っている。
目の前の女の子も待ちわびている様子だが、先ほどから聞こえてくる話では男の子の方はそんなに乗り気ではないようだ。
にべもない物言いに、エレナはもし「二人でモミの木にリボンを結びたい」とシルバに打ち明けたら、こういう反応をしたのだろうかと苦笑いを浮かべた。
けど、今日一日くらいは願ってもいいではないか。
愛情という感情は目に見えず、移ろうものだ。だからこそ不安になり、確証が欲しいと思う。
けれど、目に見えないものを証明するということは、難しい。
だからこそ、ジンクスにすがりたくなるのだろう。
「クリスマスの夜まで現実的なこと言わないでよ」
突然立ち止った女の子の目は少し潤んでいた。