聖なる夜の願いごと
それに焦ったのは男の子で、悲しそうな表情をする女の子を宥めようと手を伸ばすが、女の子はその手から逃げるように一歩下がる。
そして、二人分のリボンを胸に握りしめて、キュッと結んでいた口を開く。
「もういいもん。私ひとりでお願いしてくるから」
「あ、おい!」
人ごみの中に走って行った女の子は数秒で視界から消えた。
残された男の子はどうしていいのか分からないのか、その場に立ち尽くしていた。
見かねたエレナはソファーから立ち上がり、男の子に近づいた。
「追いかけてあげた方がいいわ」
「っ…王妃様!?」
振り返った男の子はエレナを見て驚きに一歩引き下がり、慌てて頭を下げる。
その反応にエレナも周囲の訝しげな視線が自分たちに降り注いでいることに慌てる。
「お願いですから頭を上げて。今日は公務で来ているわけではないの」
男の子はエレナのその言葉に恐る恐る頭を上げる。
「さっきの女の子は彼女さん?」
「お見苦しいところをお見せしてすみませんでした」
先ほどのことをエレナに見られていたと悟った男の子は急に恥ずかしくなったのか俯き加減で答える。
「いいのよ。可愛らしい彼女さんね」
エレナがそういって笑うと男の子は照れたのか、少し頬を緩めた。
「けど、さっきのはちょっと可哀想だったかな。あの子は貴方のことが好きだから一緒にリボンを結びたいの。分かるでしょう?」
男の子はエレナの話を真摯に受け止め、何も言わずに頷いた。