聖なる夜の願いごと
きっとこの男の子は照れ隠しであんなことを言ったのだ。
「後悔してるなら、ほら、早く追いかけてあげて。まだ間に合うわ」
「ありがとうございます」
男の子はそういって女の子を追いかけて人ごみに走っていた。
その背を見送り、ほっと安堵するエレナ。
しかし、ことの次第を見ていた周囲から思わぬ非難の言葉が飛んできた。
「あら、一人前に助言していたようだけど、おひとり様じゃ説得力に欠けるわね」
「そうね。一人で二人分のリボンを握りしめて切ないったらないわ」
聞こえてきた心無い言葉にエレナは改めて自分の今の状況を確認する。
(そうか…周りから見れば私も可哀想に映ってるのね)
エレナは自嘲的な笑みを浮かべ、二人分のリボンを見下ろした。
城に残ったシルバを想い、少しだけ寂しくなった。
そしてエレナは意を決したように顔を上げ、数メートル離れた令嬢たちのもとへ向かう。
突然自分たちの方へやってきたエレナに戸惑いを隠せない令嬢たち。
社交界では控えめといわれていたエレナがまさか自分から近づいてくるとは思ってもみなかったのだろう。
「な、なによ」
「御機嫌よう、お嬢様方」
エレナはドレスの端を持ち上げ、優雅に一礼した。
周りからは感嘆の溜息がこぼれ、男も女でさえもエレナの気品にあふれたその姿に魅入っていた。
こうしてエレナに敵対心をむき出しにするのは大抵がエレナと同世代の令嬢だ。
それは国王であるシルバの妃という地位に嫉妬してのこと。