聖なる夜の願いごと


「それとこれとは別の話です!シルバ様が忙しいのはいつものこと。あの方はウィル様についで仕事大好き人間なんですよ?それが愛する人のためなら尚更仕事に没頭してしまいます」

“愛する人”の台詞に顔を赤らめるエレナに、毒気を抜かれたように溜息を吐くニーナ。

そこで顔を赤らめてどうする、という言葉は飲み込んだ。


「とにかく、シルバ様はクリスマスなんてイベントは頭にありません」

ニーナの情報曰く、シルバは両親が亡くなってから今日まで自分のための祝い事をしたことがないそうだ。

誕生日や成人、もちろんクリスマスの様な国民的な祝いごとも。

エレナも同じようなものだったが、知ってしまえば興味もわく。

しかし、興味がない様子の相手に話を持ちかけるのは少々勇気がいった。




「シルバ様はただでさえ鈍感なんですからエレナ様から申し出ていただかなければ」

“分かってる”気持ちを新たにし、ニーナにそう言いかけた時だった。




「俺が何だって?」

不意に横から入ってきた声に、エレナとニーナは飛び上がらんばかりに驚いて振り返る。



「シ、シルバ様っ!」

「やけに騒がしいと思ったらお前たちだったのか」

シルバは呆れ顔をエレナとニーナに向けた。

後ろには書類を抱えた家臣たちが控える。



「俺の名が聞こえた気がしたが、何か用か?」

シルバのその言葉に反応したのはニーナだった。

驚いて固まっていたエレナをよそに、ニーナは一足早く我に返って前に出る。




「実はシルバ様、エレナ様がお話したい…ンぐ」

「な、なんでもない!なんでもないの。お仕事中に騒がしくしてごめんなさい」

ニーナの口を塞ぎ、慌てて笑顔を取り繕うエレナは招待状を後ろに隠しながら後ずさる。


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