聖なる夜の願いごと


「先ほどの言葉…あれは私に向けられたものではないのですか?遠くから言わずとも私に直接言っていただいてもいいんですよ」

こうもはっきり言われるとは思わなかった令嬢たちは皆一様に戸惑いを見せた。

しかし、令嬢たちの目にはエレナが正室の立場からものを言っているように映り、一番気の強そうな令嬢が一歩前に出る。



「では遠慮なく言わせていただきますが、今日は陛下はいらっしゃらないんですの?」

「陛下はお越しになりません。お仕事でお忙しくて…私一人でもオベール公爵にご挨拶をと思ってお伺いしたんです」

「あら、お仕事でお越しになれないなんて、本当だったら陛下はもうあなたに愛想を尽かしておいでなのね」

少し余裕を取り戻した令嬢たちはこれを好機とばかりに畳み掛ける。



「もしかしたら今頃別のパーティーに出席しておいでなのかも」

「そうね。今年もマリアンヌ様が招待状を送ったみたいですし」

「マリアンヌ様?」

突如として現れた人物の名にエレナは訝しげに聞き返す。

この時の令嬢たちの表情たるや、格好の餌を見つけたかのように意地の悪い顔をし、ニヤリと口の端を持ち上げて笑った。



「公爵家のお嬢様ですわ。貴方が現れるまではマリアンヌ様が陛下のご正室候補でしたの」

「ローレンス公爵家といえば由緒正しいお家柄。マリアンヌ様は幼いころから陛下のご正室候補として容姿はもちろん、政治学にもたけていらっしゃるのよ」

「陛下をお支えしようというお心が素晴らしいわ」

全員が全員マリアンヌを気持ち悪いくらいに褒め称え、まるで現正室のエレナがシルバに相応しくないかのように聞こえる。


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