聖なる夜の願いごと
背の高さもまばらなところを見ると、毎年モミの木をみんなに分けては新しい株を植えているのだろう。
エレナは、ふとホールにいた女の子が口にしていた言葉を思い出す。
“一番高いモミの木にリボンを結ぶと願いが叶いやすい”
(時間もあるし、探してみようかな)
エレナは散歩をする傍ら一番高いモミの木を探そうとホールに背を向けた。
そして、握りしめた二人分のリボンを手に歩き出したとき、何か小さな影が横切る。
それは背格好や服装からまだ幼い男の子だと分かった。
舗装された道を横切り、モミの木が立ち並ぶ森へ走っていくその男の子のことが気になり、エレナは後を追って走り出した。
舗装されていないところには雪が積もっており、そう深くはないものの足首まではすっぽりと埋まり、冷たい。
男の子の背丈だと、足首以上埋まってとても冷たいはずだ。
しかし、男の子は森へ向かって真っすぐ走っていく。
その速さといったら大人もまいてしまうほどで、エレナも全力で走っているつもりだがまったくその距離は縮まらなかった。
「ま、待って!」
男の子の背を見失ってしまいそうになったエレナは息が上がった声で叫ぶ。
口を開いたときに入ってきた冷たい空気が肺に入り、思わず咽せた。
男の子はエレナの声に気付き、立ち止って振り返る。