聖なる夜の願いごと


「はぐれたってこと?」

「いないんだ。他の家のパーティーに行ってる。父様と母様はそれがお仕事なんだって」

恐らくエドの両親は他家のパーティーに挨拶に行っているのだろう。

貴族は他家との関係を良好に保つために交流を欠かさない。

エレナもパーティーに来たのはオベール公爵に挨拶をするためでもあった。

けれど、こんな子供一人ではさぞ寂しいことだろう。



「エドはひとりで来たの?」

「ううん、おじい様とおばあ様がいる」

「じゃぁおじい様とおばあ様のところへ行きましょう?きっとエドを探しているわ」

そういってエレナは手を差し出すが、エドはなかなかエレナの手を取らない。



「僕まだ帰らない」

「どうして?」

ぽつりと呟いた声にエレナが優しく問うと、エドは手を持ち上げ握り拳を開く。




「これを結びに行くから」

開いた手のひらには一本のリボンがあった。


「リボンを結びに行くの?」

「うん。父様と母様が早く帰ってきますように。僕とたくさん遊んでくれますようにってお願いするの」

「けどモミの木はホールにもあるわ」

「あれじゃ駄目なんだ。一番高いモミの木じゃなきゃ駄目なんだ」

そういうと思った。エレナはエドの答えを予測していた。

強い意志を湛えた瞳に見つめられ、エレナは諦めたように溜息を吐く。


< 47 / 65 >

この作品をシェア

pagetop