聖なる夜の願いごと
「はぐれたってこと?」
「いないんだ。他の家のパーティーに行ってる。父様と母様はそれがお仕事なんだって」
恐らくエドの両親は他家のパーティーに挨拶に行っているのだろう。
貴族は他家との関係を良好に保つために交流を欠かさない。
エレナもパーティーに来たのはオベール公爵に挨拶をするためでもあった。
けれど、こんな子供一人ではさぞ寂しいことだろう。
「エドはひとりで来たの?」
「ううん、おじい様とおばあ様がいる」
「じゃぁおじい様とおばあ様のところへ行きましょう?きっとエドを探しているわ」
そういってエレナは手を差し出すが、エドはなかなかエレナの手を取らない。
「僕まだ帰らない」
「どうして?」
ぽつりと呟いた声にエレナが優しく問うと、エドは手を持ち上げ握り拳を開く。
「これを結びに行くから」
開いた手のひらには一本のリボンがあった。
「リボンを結びに行くの?」
「うん。父様と母様が早く帰ってきますように。僕とたくさん遊んでくれますようにってお願いするの」
「けどモミの木はホールにもあるわ」
「あれじゃ駄目なんだ。一番高いモミの木じゃなきゃ駄目なんだ」
そういうと思った。エレナはエドの答えを予測していた。
強い意志を湛えた瞳に見つめられ、エレナは諦めたように溜息を吐く。