聖なる夜の願いごと
「すごい……」
「すごいでしょ?」
エレナが漏らした感嘆の溜息に、エドは嬉しそうにそういった。
「樹齢八十年なんだよ。屋敷にあるモミの木はみんなにあげちゃうんだけど、これだけは特別だからずっとここにあるんだ」
「よく知ってるわね」
「毎年このモミの木にお願いごとしてきたもん」
それでこの場所まで迷わず来ることができたのか、とエレナは納得する。
近づいてよく見てみると、太い幹には梯子がかけられている。
このモミの木を求めてオベール家へ来ているのはエドだけではないようだ。
「じゃぁ、僕リボン結んでくるね」
「え?ちょっ…ちょっと待って!」
「なぁに?」
呼び止められたエドは少し不満げな表情をしてエレナを振り返る。
「危ないから私が行くわ。エドは下で待っていて」
「けど自分で結ばなきゃ意味がないんじゃないの?」
「大丈夫よ。エドのリボンだもの。私が結んだらエドがお願いごとをすればいいわ」
「そっか。じゃぁお姉ちゃんにお願いしようかな」
無茶苦茶な言い分だったが素直なエドは持っていたリボンをエレナに差し出す。
「任せて」
エレナは笑顔でそういってエドのリボンを受け取ってポケットに入れる。
風でそよぐ白銀の髪を持っていた二人分のリボンで結い、梯子に手をかける。
木製で出来たそれはやや古く、頼りないものだったがエレナはゆっくり上って行った。