聖なる夜の願いごと
麗しき国王と東の令嬢
一方その頃ホールではちょっとした騒ぎになっていた。
言わずもがな、その騒ぎの中心はシルバだ。
来訪予定のない国王がパーティーに来たとあれば皆驚くのも無理ない。
しかし、今日がいつにもまして騒がしいのはシルバの隣に寄り添う女の存在を目にしてのことだろう。
エントランスからホールまで、我が物顔で隣につけてついてくる女にシルバはそろそろ我慢ならなくなっていた。
「マリアンヌ嬢、私から離れていただきたいんだが?」
「何故ですの?せっかくお会いできたのですからお話したいんです」
マリアンヌと呼ばれたその女はシルバが切り出した話の意図を全く分かっていないかのように目を丸くしてそういった。
意図を分かっていての言葉だったとしたら面倒なこと限りないが。
表面では笑みをつくり、腹の中では何を考えているか分かったものではない。
マリアンヌは“会った”というが、シルバにとってそれは不可抗力だった。
遡ること二十分前、シルバは王城からオベール公爵の屋敷まで馬車で移動していた。
しかし、その道中で馬と車体を繋ぐ留め具が外れ、馬が逃げ出してしまうというアクシデントに見舞われた。
前日からの降り積もった雪が凍って荒れ道になっていたことで馬車が大きく揺られていたことが原因したのだろう。