聖なる夜の願いごと
馬に置きざりにされ、歩いてオベール公爵の屋敷まで行く覚悟をしていたシルバたちのところへやってきたのがマリアンヌが乗った馬車だったのだ。
マリアンヌだと分かっていれば、家臣に馬車を引き留めさせはしなかったのだが、気づくよりも前にマリアンヌの方がシルバに気付いたのだった。
オベール公爵の屋敷まで一緒にとのマリアンヌの申し出を一度は断ろうかと考えたシルバだったが、馬車で二十分の距離を歩いて移動するとなると倍以上の時間がかかり、次にまた馬車が通るとも限らないためしぶしぶ申し出を受けたのだ。
「ここまで連れてきてもらったことには感謝している。だが、君と話をするためにここへ来たのではない。妃を迎えに来たんだ」
「お妃様を?」
「あぁ、そうだ」
“妃”といった途端、マリアンヌの表情から笑みが消えた。
「ふーん」と面白くなさそうに口を尖らせ、ホールを見渡すマリアンヌ。
そして、皆が自分たちに注目していることを分っていてシルバとの距離をさらに詰めた。
それはホールのどこかで二人を見ているかもしれないエレナに対しての挑発だった。
「お妃様は本当にいらっしゃるのかしら。もしいるのならもう出てきてもいい頃では?」
(出てきてくれればいいが…この状況じゃ無理だろうな)
シルバは改めて周りを見回し、溜息を吐く。
皆が注目する中、しかも別の女とやってきた夫のもとにエレナが入ってくるわけがない。