聖なる夜の願いごと
「私は何もお妃様を否定するわけではございません。ただもう一人くらい妃を抱えても良いのではとご提案しておりますの」
マリアンヌはシルバの変化に気づくことなく再びシルバに体を押し付けるように寄り添った。
「きっとお妃様もわかってくださいますわ。というよりも理解がなければ妃としていかがでしょう」
妃という立場よりもエレナを侮辱するような内容に、シルバの中で何かが音を立てて切れた。
シルバはまとわりつく体を引き剥がし、マリアンヌの正面に立つ。
「勘違いするな」
底冷えするような低い声がマリアンヌの体を硬直させる。
静かな怒りを湛えたシルバにマリアンヌの顔から笑顔が消えた。
周りで固唾を飲んで見守っている令嬢たちを見遣り、シルバはちょうどいい機会だと口を開いた。
「誰に言われずともエレナは自分の立場を理解している。俺が側室を設けると言えば反対などしない」
エレナをフォローすればするほど、令嬢たちのエレナに対する嫉妬心が増すことはわかっていた。
だが、シルバは止めることができなかった。
「仮にお前を側室にしたとしよう。その時お前はどう思う?」
「もちろんこの上ない喜びですわ」
「嘘だな。エレナに対抗心を燃やすあたり、お前の中にも嫉妬心がある。それはエレナがいる限り消えないと思うが?」
シルバの指摘にマリアンヌは黙り込む。