聖なる夜の願いごと


「これはこれは陛下、お久しぶりでございます」

「エレナ様が陛下は今日はお越しにならないとおっしゃっていましたのに」

オベール公爵と公爵夫人は驚いた様子でシルバを迎える。



「来る予定はなかったんだがな。妃を迎えに来た」

「そうでしたか。エレナ様でしたら先ほどまであちらのソファーに…あら、いらっしゃらないわね。どちらへ行かれたのかしら」

公爵夫人がホールの隅にあるソファーを見遣ったが、そこにはエレナはいなかった。



「給仕のものに探させますわ」

「いい。自分で探す。そのために来たんだからな」

パーティーに来た理由をエレナのためだと悪びれもなくそういったシルバに公爵夫人は怒るわけでもなく、むしろ微笑みながら「そうですか」と答えた。



「おばあ様!」

シルバが立ち去ろうとした時、どこからともなく現れた子供が公爵夫人に駆け寄ってきた。


「まぁエドワード、どこに行っていたの?」



(エドワード…ということはこれがオベール公爵の孫か)



「体が冷たいじゃないか」

「うん。森にね、リボンを結びに行っていたの」

森と聞いた瞬間、オベール公爵の表情が強張る。




「森に?まさかあのモミの木のところまで行ったんじゃないだろうね」

「ごめんなさい。どうしてもあのモミの木にリボンを結びに行きたかったんだ」

「無事で良かった」

無事に帰ってきた孫を見て心底安堵した様子で胸をなでおろすオベール夫妻。

しかし、当の本人エドワードはケロッとした様子で笑う。


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