聖なる夜の願いごと
仕事中だったニーナと別れたエレナはひとり廊下をとぼとぼと歩いていた。
シルバの返答を聞いて一緒になって落ち込んだニーナには悪いことをしたなと思う。
良かれと思って言ってくれたんだから怒るどころか感謝しているのに。
シルバは明日も仕事をするということが分かっただけで進歩だ。
なぜなら明日一日丸々仕事といっていたわけではないから。
しかし、どうやって招待状を渡せばよいものか。
一番良いのは後宮に帰ってきたタイミングだが、最近は帰ってきてすぐに湯あみを済ませて寝てしまう。
その一連の流れが速すぎて気づいたらシルバの腕に抱かれて眠っている、なんてことは茶飯事。
抱き枕代わりだったのか、穏やかな表情をして眠るシルバの睡眠を妨害することは出来なかった。
就寝前が難しいなら執務中、とりわけ忙しくない時間帯を狙って足を運んだのだが、エレナにとってさして時間帯は問題ではないことは本人も薄々感じている。
「エレナさん?」
不意に後ろから声をかけられたエレナは考え事を中断して振り返る。
するとそこには両手に書類をたくさん抱えた男が不思議そうな顔で立っていた。
「ウィル」
青年というには幼げで、中性的な顔立ちのウィルはシルバの側近でありこの国の宰相だ。
自分よりも一回り二回りも年を取っている家臣たちに囲まれながらも、執務を行い、時にはシルバ不在のこの国を任せられることもある。
ウィルはシルバが信頼を置いている数少ない者のひとりだ。
「どうしたんですかこんなところで。ここから先は侍女たちの棟ですよ」
「あ…本当ね。考え事しながら歩いてたらここまで来ちゃったみたい」
エレナは自分のいる場所を改めて見て、恥ずかしそうに顔を赤らめた。