聖なる夜の願いごと
対するシルバは少しでも自身の浮気が疑われていたことに内心溜息を吐いたが、今回は理由が理由なだけにエレナを説教することも出来なかった。
シルバは後ろで束ねられたエレナの髪を見て罪悪感がこみ上げた。
「すまなかったな、お前の気持ちに気づいてやれなくて」
「え?」
訝しげな表情をするエレナをよそにシルバはエレナの髪を結んでいたリボンをほどく。
「これだろ、パーティーに来たかった理由は」
「あ……」
目の前に差し出された二本のリボンにエレナはパーティーに来た理由を思い出した。
途端、気まずそうに目を泳がせる。
「手紙の中身をよく読んでいなかったんだ…という理由は通じないな。すまなかった」
そういって頭を下げるシルバにエレナは慌てる。
シルバに頭を下げさせるのは国中探してもエレナだけだろう。
「謝らないで。私も言えなかったのが悪かったんだし。それにパーティーは楽しかったの」
「本当に?」
「本当に」
疑わしげな様子のシルバの手を取ってエレナは頷きながら答えた。
「ブラントン夫人から教わったマナーもちゃんとできたし、もうだいぶ周りの目にびくびくしなくなったから」
そういったエレナは堂々としていて、曇りない笑顔だった。
シルバがエレナの笑顔を見て少し安心したのもつかの間。
「ただ…」
「ただ?」
言いにくそうに口を開いたエレナにシルバが先を促すように繰り返す。
するとエレナはちらりとシルバを見て、真っ赤になって俯く。