聖なる夜の願いごと


エレナは結婚当初、それを恐れあまり社交界に顔を出すことはなかった。

それは自分自身が揶揄されることよりも、シルバやアークの心象にまで飛び火するのではないかと恐れたためだ。
しかし、社交界に出席しないということの方が問題がある。

いよいよ追い詰められたエレナを救ったのがブラントン夫人だった。

爵位の低さからシルバとは長年距離を置いていたそうだが、人前に出ることを恐れるエレナを見かねてブラントン夫人が声をかけてくれたというわけだ。

ブラントン夫人は大らかでとても優しく、右も左もわからないエレナに分かりやすく手ほどきをし、その交友関係の広さをもって様々なパーティーに連れて行ってくれた。

エレナは次第に社交界に顔を出す機会が増え、日に日に自信に満ちた顔になった。

今やブラントン夫人からはもうひとり立ちしても大丈夫と太鼓判を押されているエレナだったが、こうして月に何度かはブラントン男爵の屋敷を訪れて社交界の話に花を咲かせているのだ。




「ウィル…お願いがあるんだけど…」

ブラントン夫人との約束に遅れるわけにはいかないと思ったエレナは迷わずウィルにそういった。



「おや、珍しいですね。エレナさんが私にお願いごとなんて」

「これをシルバに渡して欲しいの」

そういってエレナが差し出したのはシルバに渡そうと一週間あたためていたパーティーの招待状だった。

咄嗟に取った行動だったが、良い案だと思った。

自分で渡せないのなら誰かに頼んで渡してもらえばいいのだ。



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