@恋。
帰りの車内。
お互い何も話さない。

チラリと横を見ると、ハンドルを握るママの寂しげな横顔が目に入った。


「旅行か…旅行なんて…」

ママはそこで言葉を切った。


声が震えていた。
きっと後には『無理』という言葉が続くとわかる。


車内ではママが好きな男性歌手の曲が静かに流れていた。

昔流行っていて、パパと若い頃よく聴いていたらしい。

キレイな澄んだ歌声。


窓の外はもう夜の灯りで溢れていた。

ネオンと車のヘッドライトの波。

灯りがぼんやりと滲んだ。


涙がこぼれ落ちないように、必死で堪える。

泣いちゃダメ、泣いちゃダメだ…。





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