【企画】魔法が醒めるとき





「月美……」

「なぁに?」


あたしの頭を抱えるように抱き、もう片方の手で指を絡める光。


「このまま、逃げないか?」


胸が熱くなった。


光は、こんな言葉を言う人じゃない。



こっちが恥ずかしくなるような事をサラッと言っちゃう、そんな人だけど。

夢を語るような人じゃないから。


光にだって過去がある。


あたしを抱いた後、哀しい瞳で空を見上げる時があった。

あたしは、それに気付いていたんだ。


あたしじゃない誰かを想っているんだろう、と。


だけど、あたしを抱いている時だけ。

その時だけは、あたししか見ていない。


それで満足だったの。


こんな恋愛なんて、今までのあたしなら考えられない。

友達が相談してくるものなら、すぐに別れろ。そう言っていただろう。

自分が経験して初めて知った、想い。


それでもいいから、そばに居たい。


遊ばれていようとも、本気じゃなかろうとも、それでも良かったんだ。


だって……あたしが好きだったから。



光を愛してしまったから。



< 43 / 71 >

この作品をシェア

pagetop