【企画】魔法が醒めるとき
「……どうして? どうして、そんな優しい事が言えるの? あたしは、あなたを。東吾さんを……裏切ってたんだよ?」
あなたって婚約者が居ながら、他の男の人を愛してしまったんだよ?
最低な事をしたんだよ?
「僕は、親に言われるがままに育ってきました。自分で言うのも何ですが、良い子供ってやつですよね。
何の反抗もしない、言われた事は守る。だから面白みの無い男になってしまったんですけどね」
クスッと笑った東吾さんは、出窓の外の景色へと視線を移した。
「今回の事は気にならないと言えば嘘になります。だけど……僕はあなたを愛してしまったんですよ。
この気持ちに勝るものがないんです」
そう言った横顔は、辛そうな笑顔だった。
『こんな時ですら洒落た事が言えない僕は、本当に面白みがないですよね』
そう付け加えた東吾さんは
「堅苦しい言葉じゃなくて素直に伝える事も覚えますね」
と、いつもの笑顔であたしを見つめた。