【企画】魔法が醒めるとき
「月美さんっ!?」
ポロポロと溢れ出した涙を見て、東吾さんは慌ててポケットを探り出した。
ハンカチを取り出し、あたしに差し出してもオロオロとしたまま。
「どうして、そんなに優しいの?」
「……好きだからです」
頬を赤く染め、そのまま俯いてしまった東吾さんにあたしは何をすればいい? 何を言えばいい?
「こんな形でしか、あなたを側に置けない僕を軽蔑しますか?」
驚いた。
東吾さんから、こんな言葉が出るだなんて。
差し出してくれていたハンカチを東吾さんの手から取り、小さく首を振った。
「月美さん……。帰りましょうか」
そう言われ、もう一度見上げた空には朧月夜。
柔らかく霞んだあなたは、儚くも暖かかった。
あなたに背を向けて、あたしは歩き出す。
この人と一緒に。
「行きましょう」
その声で東吾さんへと視線を向けると、優しい笑顔があたしを待っていてくれた。
【END】