RUN for YOU
「俺がさ、おまえの走る姿を初めて見たのは、俺が中3の時。あの、全中の決勝」


裕斗先輩は、遠くを見ながら、そう話し始めた。


「その時俺はまだぜんぜん全国レベルとかじゃなくて、その日は男子の100M決勝を見に行ってたんだ。少し会場に着くのが早かったみたいで、その時は女子100M決勝の直前だったらしくて」

あたしは黙って、その話を聞いた。

「暇だったし、スタンドに上がって見たんだ、そのレースを。

そしたら、おまえが走ってた。

なんか、初めて感じる感覚だったよ。憧れっていうのかな。体中に、すごい衝撃を受けた。

そしてその笑顔に、心を奪われた」


裕斗先輩が懐かしそうに、少し微笑んだ。


「でもそのすぐ後だったかな。おまえが陸上界から姿を消したって聞いたのは。その時なんで、って思ったのと同時に、もう一度あの姿が見たい、そう思ったんだ。城南のマネージャーにおまえが来た時、なんでかわからないけど直感で思った。もしかしたら、って。それがまさか本当だなんて、思わなかったよ」

「体育祭で、おまえの走る姿を見た時、あの時と同じ感覚が襲ってきた。それから、やっぱりすごいと思った。おまえの走る姿は、見る人を引き込んで、虜にする。でもなぜか、すごく輝いて見える。そんなおおまえに、ずっと走っていて欲しいって思った。体育祭のあとにおまえの過去を聞いたとき、正直びっくりした。なにも知らなかったし、体育祭でリレーに出させたの、ちょっと後悔もした。でもおまえのあの時の話し方は、なにかを伝えようとしていた。まだ自分は走りたい。もう一度走り始めたい。そう言っているように聞こえたんだ」

あたしは下を向いていて、裕斗先輩の表情はわからなかったけど、すごく強い想いが伝わってきた。














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