アイサツはビンタ!
「いやー、いいもん見せてもらったぜー」

放課後。

羽山が俺の肩をバシバシ叩きながら笑う。

「……」

俺は濡らしたハンカチを頬に当て、むっつりした顔をぶら下げていた。

頬がヒリヒリする。痛い。

「お嬢気が短いんだよねー。おまけに逆らわれるの嫌いだし」

宗方がそう言ってケタケタ笑う。

お前絶対知ってて黙ってただろ?

憮然としていると。

「卓也君」

教室に戻ってきたお嬢が、俺に手を差し出した。

な、何だよっ。

思わず逃げ腰になる俺。

まさか噛み付き返されるとは思わなかった土佐犬としては、流石に尻尾を巻くしかない。

しかし。

「ほら、貸しなさい、ハンカチ。もう一回水道で濡らしてきてあげるから」

「え…」

お嬢は呆然とする俺の手からハンカチを引ったくり、また教室を出て行った。

「優しいなぁ、お嬢♪」

羽山がいかにもメロメロになりました、みたいな声を出す。

その隣で、宗方は俺の顔を見る。

「お嬢はツンとデレがはっきりしてるの。わかりやすいでしょ?」

「ふん」

俺はそっぽを向く。

あれはツンとデレってより、飴と鞭だな。

しかも鞭が、この上なくイテェ事イテェ事。


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