アイサツはビンタ!
はっ、と。

俺は馬鹿にしたように笑った。

「仲直りなんてタマか、アイツが」

「ほんとだって。ああ見えて卓也君の事気になってしょうがないんだから、お嬢」

「ビンタの相手がいねえからだろ?俺ぁここ数日頬がヒリヒリしなくて助かってるよ」

「でも」

宗方は、心の奥底を覗き込むような目で俺を見た。

「窓からお嬢が顔を見せなくて、寂しいとか思ってるでしょ?」

「っ…」

ぐ、こ、こいつ…。

小娘の癖に鋭くえぐるような事を…。

そうなのだ。

冷戦に入って以来、お嬢は放課後にしかこの教室にやって来ない。

来た時も、私はゆきちゃんと話に来たのよー、なんて顔をしている。

ふざけんな。

こっちをチラチラ見てるの知ってんだぞ!

…まぁ、俺もチラチラ見てるけど。

「言いにくいなら私がとりなしてあげるからさー」

「いらん事せんでいいっ!」

話は終わりだ、とばかりに、俺は宗方に背を向けた。

女ってめんどくさい。

どうしてこう、複雑な精神構造をしているのか。

…男が単純で馬鹿って事か。


< 56 / 75 >

この作品をシェア

pagetop