血よりも愛すべき最愛
1816年、ロンドン
真夜中のロンドンほど、妖しげな夜は無し。
神秘的な魔物の住処とも思えよう、ひっそりと、されど重圧感ある帳は“何があっても不思議ではない”と思わせる。
「や、こんなところで……!」
正にドレスに身を包みし、婦人がそれであった。
帳の中に身を投じたのは、ほんの出来心だったのだ。退屈な毎日に刺激が欲しいという。
「だ、だめよ……、まだ出会ったばか……っ」
結果がこれ。
婦人は紳士に出会った。
フロックコートを身に纏い、左目にモノクル、そうして銀時計を手首に巻いた男。
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