血よりも愛すべき最愛
12月初頭の寒さに身を縮めたわけではない。そもそも、好き好んで深夜に出歩いているわけでもなし。
『彼女』は人目を避けていた。
「……!」
進むべき方向から人の声がすると、『彼女』は道を変える。
いくら深夜と言えども、人口800万人もいれば、誰かしら起き、外出はしている。
だからこそ、先刻の『無理』に繋がるのだ。
倫敦市は好きだが、人が多すぎる。こちらが住み続けたいと思っても、周りは嫌がるだろう。
「いた、い……」
冷たい夜風が顔に当たり、傷が痛む。
右目を押さえる。きちんと閉じることが出来ない瞼――立て付けの悪い戸のように隙間があるため、右目はいつも乾燥し、小まめに目薬を打たねばならない。