倫敦市の人々
それにしても。

ジャックは横たわったまま視線を彷徨わせる。

ロンが川から引き摺り揚げてくれたのだろうか。

だとしても、犬であるロンが、冷え切ったジャックの体を温める為に新聞で包んだとは考えにくい。

胸の刺突の傷も手当てしてある。

これはどう見ても、第三者の手によるものだろう。

一体誰が…。

右に左に視線を移動させたジャックは。

「あ…」

自身の傍らに座っていた女性と目が合った。

青い瞳。

日本人形のような真っ黒な長い髪は水にしっとりと濡れている。

彼女が帝難川に飛び込んで、ジャックとロンを引き揚げた証拠だった。

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