倫敦市の人々
暗闇の中で視界が悪かったものの、目を凝らせば見える。

ジャックは右手に刀を握っていた。

いつもベルトに帯びていた刀。

だが、彼がそれを抜刀しているのは初めて見た。

そしてその切っ先から、滴る液体…。

「ジャック…さん…?」

不安げに、椎奈が小さく名を呼ぶ。

その声に気付いて振り向いたジャックは。

「グルルルルル…」

顔に返り血を浴び、眉間に深々と皺を刻み込んだ険しい表情で二人を睨んだ。

発するのは、言葉ではなく唸り声。

まるで肉食獣が威嚇するような、威圧する声…。

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