倫敦市の人々
夜闇の中、息を乱して走り続けるユヤ達。

そんな彼らを、ジャックは身を低くして追い続ける。

刀を片手に追跡してくるその姿は、さながら殺人鬼といった所か。

「猟奇殺人事件を思い出すわね」

この緊迫した最中に、ラミアが思い出話のように言う。

猟奇殺人事件。

倫敦市に長く住む者にとっては、禁句(タブー)ともいうべき暗黒の歴史だ。

およそ100年前の倫敦市で、約二ヶ月間にイーストエンド、ホワイトチャペルで少なくとも娼婦5人がバラバラにされて殺害された事件。

公共の場もしくはそれに近い場所で行われ、被害者は鋭利な刃物で喉を掻き切られ、その後で特定の臓器を摘出されるなどした。

犯行は夜、人目に付かない隔離されたような場所で行われた。

あまりに猟奇的な事件ゆえに、倫敦市の警察は威信をかけて警察官を総動員し捜査に当たったが、結局一世紀以上経過した現在も犯人は特定できず、事件は完全に迷宮入りしている。

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