倫敦市の人々

彼女は水と肥料を食事にし、髪で光合成を行う。

この店先に並ぶ花々と同様、彼女自身も『植物』なのだ。

個体番号C7-110。

とある国の研究施設ではそう呼ばれていた。

どういう経緯でワンピースにブーツを着た、見た目18歳の少女の姿になったのかは分からないが、彼女はこの倫敦市に移り住み、椎奈という名でこうして花屋を営んでいる。

今では店の売り物の花よりも可憐な『華』として、多くの倫敦市民に慕われている。

そんな彼女の耳元に。

「あ…」

倫敦橋辺りから風に乗って、木の葉が掠めていった。

風に舞う木の葉が、椎奈に話を聞かせてくれる。

「…記憶を失った…男性がいるんですね…」