倫敦市の人々
「『獣』の臭いがするわね…」

塔橋(タワーブリッジ)の欄干に頬杖をつき、その女はアイヴィーと同じ感想を持つに至った。

片手には、缶のトマトジュース。

彼女はそれを飲み干すなり、グシャリと。

女性には難儀であろう硬い空き缶を、容易く握り潰した。

ラミア・ヴァルバラ。

それが彼女の名前。

長い癖っ毛の黒髪に美貌、道行く男性達が振り返るのも無理はないが、彼女が注目されるのにはもう一つ理由があった。

服装。

別段デザイン自体は少々古めかしいだけで珍しくもないのだが、その着衣のそこかしこが煤け、焼け焦げ、薄汚れていた。

まるで火事場から焼け出された後のように。

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