倫敦市の人々
時刻は夜9時を指していた。

少し霧が出始めた路地を、美弦は歩く。

ボンヤリとした瓦斯灯のみが照らす、あまり視界のよくない道路。

割と都会だというのに、夜は随分と暗いというのが、美弦の倫敦市の印象だった。

今の時代、田舎でも24時間営業の店舗は珍しくないのに、倫敦市は中心部である倫敦街にまで行かないとそんな店はない。

少し郊外に出ると、咳払いさえ憚られるほどの暗闇と静寂が周囲を包み込むのだ。

昼間と深夜では全く別の顔を持つ。

それが倫敦市という都市だった。

「……」

立ち止まり、ふと振り返る。

何となく。

明確な説明ができる訳ではないのだが、ただ何となく。

気配を感じたような気がした…。

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