倫敦市の人々
まだ朝靄煙る倫敦市。

ジャックは瓦斯灯消えぬ薄暗い街を歩いていた。

倫敦街の一角。

普段ならば、華やかなこの地区にジャックが足を踏み入れる事はない。

自分がホームレス然としている事は自覚があったし、何よりベルトに帯びているこの刀。

こんなものを携行したまま、人目に触れる往来を行き来する事は避けたかった。

が、今回は話が別だ。

ラミアが告げた『大時鐘時計台へ行け』という言葉。

そこにジャックの過去へと繋がるものがある限り、形振りなど構う気はなかった。

しかし。

「お前までついて来る事はなかったんだぞ」

ジャックは視線を下げる。

主たるジャックに忠実に付き従う臣下のように、彼の後を歩くロンの姿。

ロンはジャックを見上げ、ただ尻尾を振る。

「…何が起きても保証はしないぞ」

そう言って。

ジャックは帝難川の畔に聳え立つ大時鐘時計台を見上げた。

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