倫敦市の人々
記憶のなくなってしまったジャックが、唯一持っていた所持品。

もしかしたら自分の素性に辿り着く手掛かりになるかもしれない貴重な物証だ。

ストリートギャングに奪われて日銭にされてしまう訳にはいかない。

「この刀はやれない…その代わりに…ほら」

ジャックはジーンズのポケットに手を捻じ込み、幾らかの小銭を取り出す。

「これ全部やる。だから勘弁してくれないか?」

「何だ!兄ちゃん貧乏だけどいい奴だな!」

礼も言わず、ジャックから小銭をしゃくり取るユヤ。

態度は決して誉められたものではないが。

「じゃあ兄ちゃん命は助けてやるよ!」

ニカッと笑ったその笑顔には、彼の純真さが滲み出ていた。

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