いとしいこどもたちに祝福を【後編】
「えっ、あんたさっき京様派って言ったじゃん~!」

「だって京様は跡取りだし名家のご令嬢あたりと結婚されそうだし。陸様ならまだ望みあるかも知れないじゃない?」

「うっわぁ~打算的~…」

二人の話し声が遠ざかっていくと、夕夏は小さく溜め息をついた。

「どんだけ声でかいの…丸聞こえだよ」

「う…うん」

「まあ…今なら多分、国中の若い女の子たちが似たような会話繰り広げてるんだろうけどね。当の陸は君しか眼中にないだろうに」

くすりと夕夏が笑うのをよそに、晴海は漠然とした不安感に苛まれていた。

胸の辺りがざわつくこの感じは何なんだろう。

「……婚約者、かぁ…」

「え?」

「なっ、何でもない!…私、ちょっと風弓のところにも行ってくるね」

ふと小さく呟いた言葉は、夕夏には聞こえなかったらしい。

何となくばつが悪くなった晴海は俄に立ち上がった。

「あ…ああ、あの子は下の階だっけ」

「うん」

「後で私も行くよ。入院生活ってやることなくて暇だろうからさ」

「ありがと、夕夏」

唐突に言葉を切り出した晴海に、夕夏は少し面食らったように怪訝そうな表情を浮かべたが何も触れて来なかった。
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