いとしいこどもたちに祝福を【後編】
「晴、寒くない?」

気候が穏やかな春雷でも、日没後は少々肌寒い。

袖の短い上着を着ていたせいか、陸が心配げに声をかけてきた。

「うん、大丈夫」

返事と共に、陸と繋いでいる手に少し力を込める。

「陸、何処まで行くの?」

「ん…もうちょっとだけ、先」

どうやら近くに水場があるらしく、先に進むにつれて流水の音が近付いてくる。

やがて、小さな川から水が流れ込んでいる池が見えてくると陸はぴたりと足を止めた。

「此処は…」

「ごめん…水、怖い?でも俺にとっては、昔から凄く大切な場所なんだ。だから晴と一緒に来たかった」

陸の、大切な場所――

そう教えてくれただけでも、絶え間なく聴こえる流水音への恐怖心は多少和らいだ気がする。

「…四年前、俺はこの場所で月虹に連れ去られたんだ。記憶を奪われても夢に見るくらい、此処でのことは頭に焼き付いてたんだろうな」

「!!陸、それって…」

悪夢として、陸を苛んでいた出来事があった場所――

それは陸にとって忌まわしい場所ではないのか。

「うん…もしそれだけだったら、俺はこの場所が苦手になってたかも知れない。けど、違うんだ」
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