いとしいこどもたちに祝福を【後編】
陸は繋いだままだった掌をゆっくりと解(ほど)いて、こちらに向き直ると晴海の両手を優しく捕らえた。

「十年前、俺は此処である女の子と出逢ったんだ。そのときのことを覚えてるから、此処は俺にとって四年前の記憶以上に大事な場所なんだよ」

「…十年前に逢った、女の子?」

「うん。とても可愛い子で、俺はずっと彼女と一緒にいたかった。だけど女の子はすぐ帰らなきゃいけなかったから、俺はその子とまた逢えるように、ある約束をしたんだ」

絡めた指先に力を込めて陸はまた嬉しそうに笑ったが、そんな陸とは裏腹に少し胸がざわついた。

「…どんな、約束?」

そう訊ねると陸は少し恥ずかしそうに俯いて、少し間を置いてから顔を上げた。

「今考えると、物凄い一方的な話なんだけどさあ…大きくなったら逢いに行くから、俺のお嫁さんになって欲しいって言ったんだ」

「……お嫁、さん」

幼い子供同士の微笑ましい約束、なのに。

大人げないと解っているのに、その少女に少し嫉妬してしまった。

「…じゃあその約束、相手の女の子は今でも待ってるんじゃないの?」

「ん…けどその女の子は俺よりも小さかったから、次に逢ったときにはその約束も俺のことも、忘れてしまってたんだ」

「…そう、なんだ」

そして、少し寂しげに話す陸に対し安堵してしまったことに自己嫌悪する。

「だけどその女の子は、もう一つの約束は覚えててくれたから」

もう一つの約束――?

その言葉に、再びどきりとした。
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