いとしいこどもたちに祝福を【後編】
――電話が鳴っている。

別の部屋で作業をしていた青年は慌てて電話のある部屋へ駆け込むと、引ったくるように受話器を取り上げた。

「はいっもしもし!?…ああ、貴女でしたか!」

電話の相手の声を聞いた瞬間、それまで険しかった青年の表情が幾分和らぐ。

「あ…いや、何でもないんです大丈夫です。それより例の話、どうでした?」

電話は今の彼が最も待ち望んでいた連絡ではなかったものの、青年自身が気に掛けていた人物からのものだった。

青年はすぐ頭を切り替えて、相手に気を遣わせないよう普段通り振る舞う。

「…そうですか!じゃあ、いつ頃こっちに来られそうです?いえ、観光だけでもいらして頂けるなら嬉しいですよ!」

相手に見える筈もないのに、思わず語調に合わせて会釈する。

青年より遅れて部屋に入ってきた少女は、それを見て小さく吹き出した。

「晴海ちゃんと逢えるの、楽しみです。僕が最後に逢ったのは十年くらい前ですからね…きっと忘れられてますよ。でも大きくなったでしょう」

電話口から聞こえる笑い声につられるように、青年もくすくすと笑みを零す。

それは青年が久々に浮かべた笑顔で、少女はそれを見て安堵したように目を細めた。

「仄さん似の美人さんになったんじゃないですか?あはは…確かにまだ独り身ですけど、先輩の娘さんにそんな気は起こせないですよ」

傍らの存在に気付いた青年が視線を寄越すと、少女は「何の話だよ」と口を動かした。

「こっちは相変わらずですけど…まあ直接お話したいこともありますから、それはそのときに。はい」

ああ、そろそろ終わりそうだと察して少女は座っていた椅子から立ち上がって青年の傍へ歩み寄った。

「ええ、詳細が決まったら連絡ください。それじゃあ、また」
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