いとしいこどもたちに祝福を【後編】
風弓は一旦言葉を切ってから、小さく息を吸い込んだ。

「ある日、姉ちゃんは俺を真似て力を使おうとしたら、死に掛けるくらい大きな心臓発作を起こしたんだ」

切っ掛けとなった出来事の記憶が消え去って尚、水に対する恐怖心だけ残ってしまった晴海。

その際のことを回想する度、風弓は苦しそうに眉を顰(ひそ)めた。

「姉ちゃんの力は多分、最大まで高まった状態なら陸や香也よりも強い。だけどその能力の強さに、姉ちゃんの心臓は耐えられなかった」

確かに、能力を扱う際には体力や気力をある程度消耗する。

扱う力が大きければ術者に掛かる負担も高まるため、身体の弱い者にとってはかなり酷だろう。

「だから親父は、姉ちゃんの力を抑える方法を探すことにした。当初は珍しい能力だし全然解明も出来てないから、完全に封じるのは少し迷ったみたいなんだけどな」

「…そういえば充さん、能力者の生体研究をしてたんだっけ?何で医者の充さんが…」

月虹で 自分や香也の健康管理を行っていた記憶しかない。


能力の調査については、寧ろ他の研究員らが行っていたような気がする。

そんな予(かね)てよりの疑問を投げ掛けると、風弓は少し呆れたように短く溜め息をついた。

「学生時代に、生体化学部の知り合いに能力者の生体に関する課題を手伝わされたっていうか、殆ど親父が仕上げてやったらその成果が生化学部の教授たちの評判になっちまって、良くそっちの学部に顔出してるうちに、いつの間にか能力者の生体についての詳しくなってたんだと。その上で一応、医学部の成績もそこそこ維持出来てたらしいってのが嘘くせえけど」

「み、充さんって凄いんだな…」

「見た目と性格は、全然冴えないのにな」

冴えない、というか何というか、まあそんな経歴とは無関係そうに見える程おっとりとして気取らない人だと思う。

「…何か君たちのお父さんがどんな人なのか、面識のない私は全然訳が解んなくなってきたんだけど」
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